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4回目の発表会 06 ~やはり魔物が棲んでいる~

ついに自分の出番が廻ってきた。
残念ながら突発性の緊張状態から身体を完全に弛緩するには至っていない。

司会を兼ねている坂本先生のコールに応じて出ていく。
なるべくゆったりステージに向かう。


― だいぶ落ち着いた


脳は既に落ち着いている。
だが身体はまだ標準状態まで落ちてない。

ゆっくりと譜面台に楽譜を置き、ゆっくりと開く。
まだわずかながらに腕に震えが残っている事を確認する。

楽譜を押さえるための木製洗濯バサミを取り出し、これまたゆっくりと楽譜を挟み込む。


― どうせ、この場は俺の時間や。ゆっくりでええ。


脳は驚くほど冷静。
この時間の取り方が音楽的な間ではないことは判っていた。
身体が落ち着くのをなるべく待っているのだ。


― できるだけ時間を取りたい


観客に向かって軽く礼をする。
通奏低音で支えてくれる伴奏者のお二人に笑顔で会釈する。

ゆっくりと時間を取る。
『緊張しぃ』のくせにこう云う間を取ることに躊躇はない。


目をつぶり。深呼吸。
予定していた通りの手順。

脳は落ち着いている。
身体はまだ。

だが、そろそろ「取れる間」としては限界だ。相撲で言うところの「時間いっぱい」の状況。
完全弛緩まで後少しだが、無音の間はここらが限界だ。


― 仕方ない、今回はこの状態のまま行くかー。なんとかなるやろ。


覚悟を決める。

出だしの2小節の音イメージを浮かべ、テンポを確定する。

目を開き、ガンバ奏者を軽く見ながら入りの指示をだす。


ヴィヴァルディ協奏曲第3番 ト短調(Op.7 Nr.3 RV.326)


この曲は出だしの音が『通奏低音しか鳴らない』。
メロディーパートは通奏低音に半拍遅れて始まるのである。

よって、ソリストは通奏低音にテンポの指示だけを送って、そのテンポで自分は裏拍から入る。このパターンは、ピアノが伴奏を弾いているところに後から入っていくケースや、全員同時にスタートするケースよりも、出だしのテンポ形成が圧倒的に難しい。


心配していた出だしだが、立ち上がりはまぁまぁ・・・といったところ。
緊張状態でスタートした割りには次第点と言えるだろう。


高い集中力が要求される最初の4小節を乗り切り、「のれる」5小節目からに差し掛かる。ここで「のれるか」かつ「落ち着けるか」でこの後の安定度は大きく変わることが、練習時のパフォーマンスの統計から判っている。

そして、ここで、本番としてはかなりがんばって大きく弓を使うことが出来た。
少しだけ身体の緊張がほぐれてきた。


― よし、その調子!


だが、その後の高速パッセージへの導入となる下降音階で自分でも判るほどに加速した。


ぁ・・・転んだ・・・


その後からはヴィヴァルディらしいタカタカタカタカ刻むところ。
最初の見せ場である。


加速したままさらに加速していくが、止められない。
自分が思っているよりも常に一歩早く指が降りる、弓が返る。


― くぅ・・・もう、このまま行くしか無いか


せめて落ちないように必死に喰らいつく。
だが、喰らいつくほどにテンポは加速する。
本来の想定テンポより早くなっているので音程が甘い。

これほど冷静に状態を把握しているのに、身体が弛緩しない。


用意していた「待つ」ポイントで極力引き戻そうとする。
そして実際に多少待って間を作ることは出来ているのだが、もはや場が「早い」事が前提になってしまっていて、どうしても高速進行してしまうのだ。


― 仕方ない、espressivoのところで大きくテンポを戻そう


第一楽章の真ん中辺りに曲の調子が大きく変わって、ゆったりとしたテンポを差し込みやすい箇所がある。
そこで、場を一旦戻したい。


   


だが、運命はあまりに過酷だった。

espressivoに差し掛かったところくらいであった。


楽譜が見えない・・・


半分を超えた辺りから楽譜が段々見えなくなって行っていた。
汗のせいでメガネがずり落ちて来ていたのだ。ちょうどフレームが目線の位置にかかってしまい、楽譜を普通に見ることができなくなっていた。

顔の角度を変えたり色々しながら楽譜を必死で追う。いや・・・正確に言うと、もはや楽譜を見て弾いているのではなく、7割くらいを記憶で補完しながら弾いている状態だった。

そうしている間にも、メガネはドンドンずり落ちて行っている。


― これ、メガネ落ちたらめっちゃオモロイんやろうな・・・


場違いにもそんなことを一瞬考えながらも、演奏は続いていく。
待てるポイントで少しずつテンポを落としていく。


― 何とか、あのポイントで落としきるぞ。


次の見せ場に入る直前、最も大きく間をとることが可能で、2拍ほど「休憩ポイント」がある。
勿論、2拍の休符があるわけではない。パッセージが簡単で途中に開放弦を挟むため左手・右手共に一瞬緩めることができるのだ。曲調的にも次へのつなぎの部分である。練習からレッスンに至るまで、全ての通し演奏においてここで一回ゆるめて、そのあとガーッといくというパターンで必ず演奏してきた。
だから、本番でもここで緩める。

バロック的にはご法度なのだろうが、観客には不自然に聞こえない形でテンポを大きく落とせる。
その直後から始まる一番の見せ場だけはキメたい。


― 小さいrit.があるように聴こえても問題ないやろ


そう思ってガンバとアイコンタクトを取ろうとした。
だが、まさかその開放弦のはずの箇所を4指で弾こうとしてしかも移弦をミスった。


― あぁ・・・そうそう・・・俺テンパったら4で弾きたがるもんなぁ・・・


楽譜が見えてないことにより突如暗譜に近い形での演奏を強いられたことは、想像以上にダメージがあったのだ。そして、そのミスにより逆に加速する形で、この曲で最も見せ場でかつ難しいパッセージに突入していく。


― えぇい・・・仕方ない。


力で押し切るしか無い。口惜しいがここは音楽性を捨てよう。
音楽的には8割減以上になるだろうが、このテンポで身体がこわばった状態では致し方ない。この演奏クォリティで落下したらまた心にダメージを残す。事故死しないことを優先するしかない。

本来は弓の根本で軽く触りながら、エッジを効かせた演奏で徐々にテンションを駆け上がらせていく曲の作りの予定だった。だが、今のテンポと右手の制御状況を考えると、その演奏方法だと弓が暴れて最悪はじかれてしまう。

弓圧を入れ、弓の使う位置をもうすこし真ん中寄りにスライドする。落ちないことにウェイトを移した演奏にシフトするのだ。


― くやしいなぁ・・・。ここはすごくかっこいいところなのに・・・。


不思議な悔しさだった。
自分が弾けないことがカッコ悪いとかそういうのではなく、曲の良さを知ってもらえない事が悔しかった。
楽譜に申し訳なかった。

今回の曲はバロック奏者である先生も知らなかったし、通奏低音奏者も知らない曲だった。そのようなマイナーな曲でも、素晴らしい曲があるということを紹介したかった。


指がもつれながらも何とか難所を乗り切る。


― こりゃ、でかい音で弾いただけやなぁ・・・


そして、最後のパラグラフだけはきっちり丁寧に弾いた。
フォルテからピアニシモに落とす音量差をきっちり出してやるところを丁寧に弾く。


― ま・・・一箇所だけでもやりたいことやれたね


最後の重音。
E線での裏返りが心配される箇所だったが、何とか乗り切った。音が多少プルプル震えていたが・・・。
何とか第一楽章を最後まで弾き切った。


― よー落ちへんかったな・・・


それしか感想が浮かばなかった。


― まぁ、この状況で弾き切っただけエライってことにしとこか。


   


楽譜をめくって第二楽章に向かう。


― ぁ・・・震えてる。


身体の緊張は悪化していた。
想定外のメガネズレ事故により、体内ではアラートが鳴り響いていたのだ。


― そや・・・メガネ直さななぁ・・・


メガネを直す。
震えは収まらない。


― やばいなぁ・・・プルプル病、2楽章は目立つねんでー・・・


他人ごとのようにそう思う。
また、少し時間をとる。目を閉じる。

ここは美しい響きの会場だ。
第二楽章が最もこの会場に映えるに違いない。


音のイメージを作って目を開ける。


さぁ、第二楽章だ。



続く。
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Secret

はじめまして

初めまして。
ヴィオラで検索をしていて、こちらのブログを見つけました。
同じくレイトスターターの西洋花梨と申します(^^)
VNのお話などなど、とても楽しく拝見させていただきました。
これからも遊びに伺いたいので、私のブログにぜひリンクを貼らせてください。
よろしくお願いいたします!

Re: はじめまして

西洋花梨 さん

はじめまして。
私のブログに遊びに来ていただきありがとうございます。
身の回りにヴィオラをレイトでやっている人は皆無に近いので、是非、仲良くしていただけると嬉しいです。

それにしても、ついにヴィオラでも検索にかかるようになったのですねぇ・・・
リンクはフリーですので是非!
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プロフィール

ぷぃぷぃ 虫

Author:ぷぃぷぃ 虫
酒飲み三十路男。
ふと思いつきでバイオリンを初めてしまう。合唱歴は10年超えだが楽器は素人。
ひょんな事からヴィオラも初め「させられる」。レイトスターターながらスイッチプレーヤーを目指すことに・・・

職業 SE。やぎ座のA型。

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